====== あの夏の日 ====== 子供の頃の8月には色々な思い出がある。 叔父やいとこたちと映画館へ行き、映画を観終えた後に彼らと感想を語り合った。 夕暮れ時に神社の夏祭りに出掛けた時は、屋台が並ぶ通りで、大人にわたあめやヨーヨーを買ってもらった。 通りを行き交う人々、屋台の照明、甘いイカ焼きの香り。 なんて素敵な日々だろう。 それは永遠に続くと思っていた。 しかしその幻想は、夏休みが終わる少し前に露となって消えた。 お盆に都会から来た親戚たちは皆帰り、僕は一人残された。 私がいた田舎は夏休みが短かったので、お盆が終わるとすぐに新学期が始まった。 そして僕は、次の大型連休が恋しくなった。 そういうことを何年か繰り返していたら、僕はいつの間にか大人になっていた。 もしタイムトラベルができれば、あなたは子供の頃の夏の日に戻りたいと思うだろうか。 僕は思わない。 それは僕の中に刻まれた大切な記憶だからだ。 誰も何にも再現できない、唯一無二の思い出なのだ。