特命ミッション H.R.J 獄の章2



「あれがアマツ!?なんか、イメージしてたのと違う!」
「同じく。まさかあんな年端もいかない子供だったなんて……」
 突然現れた重要人物を前に、ノアとちょうまは驚きを隠せなかった。2人よりも冷静な様子のKが彼女たちのあとに続ける。
「中身はおじいちゃんなんでしょ?やんわりとお願いしてみましょうよ、世界を滅ぼすのはやめてくださいって」
「聞こえとるよ」
 アマツはKの目の前に移動すると、笑顔で彼女たちを見上げた。
「なに、少し世の中の掃除をするだけだ。お前たちが思うような大層なことではないぞ」
「おじいちゃんにとっては何てことないかもしれないけど、アタシたちにとっては命かかってるのよ」
「何もお前たちが命を張る必要はなかろう。まあ立ち話もなんだから、向こうでお茶でも飲まんか?楽しい芝居もあるぞ」
「なんか調子狂うわねぇ」
 Kはため息をついた。
「とみさん、どうする?」
「行く必要はない」
 とみは無感情に言い放った。
「見た目に騙されるでないぞ。こやつはどんな悪党よりも冷酷で、恐ろしい」
 そう言うと彼女は腰の刀の柄に触れた。いつでも抜ける体勢である。
「相変わらず情け容赦ないな、とみよ。少しは丸くなったと思っていたが」
 アマツは残念そうな顔をしながらKたちに問いかけた。
「お前たちはどうだ?私と仲良くしてくれるか?」
「う~ん……」
 渋る女子二人の横で、ちょうまは彼女たちの声を代弁するかのように答えた。
「仲良くしたいのはやまやまですが……。薬……兄さんたちが作ってる薬のことなんですが、あればら撒くのやめてもらえませんか?そしたら――」
「なんと、我々と取引しようというのか???」
 アマツは目を丸くしてちょうまの顔を覗き込んだ。
「え?えぇ……。だって、あんなことしなくても、他にやりようはあるんじゃないですか?もしアイデアが欲しければ、小生も一緒に考えますから……」
「なんとなんと!」
 アマツは両手を叩いて歓喜した。
「聞いたか狂壱!お前の舎弟は実にモノ分かりがよいな!」
「はい」
 狂壱は短く答えると、ちょうまの顔を真っ直ぐに見つめて慎重に問いかけた。
「本当にそれでいいんだな?」
「ここまで来たら、後戻りはできませんよ」
「よし」
 次の瞬間、ちょうまの身体は芯の抜けた人形のように地面に崩れ落ちた!驚くKたちをよそに、狂壱はちょうまの身体を抱き上げ、彼女たちに向かって言った。
「心配ない。少しシノブのアレ(CG端末のこと)をショートさせただけだ。我々の次の方針が決まるまで、君たちにはここでゆっくりしていてもらおう」
 そして彼とアマツが歪みの中へ消えたと同時に、Kたちの周りにアマツの一族たちが現れた!そのうちの一人が童謡のようなものを口ずさみながら、彼女たちにゆっくりと近づいて来る。
「お~なか~が、す~いた~ら」
 その爪は、まるでアイスピックのように長く伸びていた。
「た~べちゃ~お~~~」
 その手が突き出された瞬間、美しい花畑の中での戦闘が始まった!

 アマツ一族の動きに対して、とみはいち早く反応した。Kたちに向けられた手を、彼女は流れるような太刀さばきで切断していく。だが相手はそれをみるみるうちに再生させ、再び彼女たちに食指を伸ばし迫ってきた。
 こんな時に役立つのがKのチカラだ。彼女は、へいりんじの正統後継者として受け継がれた精霊のチカラを目の前の相手に向かって放とうとした。しかし、
「チカラが、出ない!?」
 どうやらKは、GODとの戦いで精神エネルギーを使いすぎたようだ。そして今やツルリン(S)が与えてくれたチカラもすっかり消えている。Kは慌てて後ろに下がると、
「二人とも!ちょっとエネルギー補給するから時間稼いでて!」
 ノアととみにそう呼びかけ、リュックのファスナーを開けた。そこには当然のようにリリーが眠っていると思われたが、彼女はすでに目が覚めており、リュックの中の非常食は彼女によって食い散らかされた後であった。
「あ゛あ゛ぁ~~~」
 Kは両手を頬に当て、ムンクのような表情をして絶望の叫びを上げた。
「ん?」
 そんな彼女を呑気な表情で見上げたリリーは、周囲の状況の変化を素早く察すると、口の周りを舐めながらリュックの中から出てきた。
「ワガハイの出番やな」
 リリーは大きく伸びをしてニヤリと笑うと、息を大きく吸い込んで、それを火炎にしてアマツの一族たちに吹きかけた!
 彼らの何人かは火傷を負ったが、それもまた持ち前の再生力により瞬く間に治癒されていった。その様子を見て不思議そうに頭を掻くリリー。
 すると、リリーの側に小さな子供の姿をしたアマツ一族が歩み寄ってきた。
「ネコチャン」
「ンあ?」
「ネコチャン、カワイイ」
「フニャ!?」
 リリーはすぐに自身の変化を感じ取った。この子供は、彼女の生気を吸収しようとしているのだ!
「ネコチャン、ダッコ」
 そうはさせまいと、リリーはその場から一目散に逃げだした。そしてそれを追いかけていく子供。
「リリ~ちゃ~ん!」
 Kの呼びかけも空しく、リリーは花畑の先にある建物のほうへと走り去って行った。

 アマツ一族の襲来を何とか耐え忍んでいたノアととみは、徐々に劣勢へと追いやられていた。特にノアの拳は、彼らに対してはまったく歯が立たない。それどころか、うかつに相手に近付いただけで生命力を削られるおそれすらある。
「お前さん、刀は使えるか?」
 とみは一族の攻撃をさばきながらノアに問いかけた。
「前に、プロレスの前座でニンジャショーをやった時に少しだけ!」
「さようか」
 するととみは、ノアに向かって小太刀を投げて渡した。
「それはアマツを倒すための特別なものじゃ」
「ありがとう!」
 ノアは礼を言い、鞘から小太刀を抜いた。それは眩しい銀色の輝きを放っていた。早速彼女は、襲いかかって来た相手の腹を一文字に裂いた。するとどうだろう。本来ならば即座に再生するはずの相手の傷口が、まるで時が止まったかのようにぱっくりと開いたままではないか。
 相手はその効果に気付き、恐れをなした表情ですぐさまその場から撤退した。それに気づいた周りの一族たちも、この異変に巻き込まれんと続々と退場していく。
 かくして一同は、アマツ一族の襲来に耐えた!

「この刀すごい!」
 ノアは感激した様子で、小太刀をとみに返した。
「でも欲を言えば、もっと早く出して欲しかったな~」
「それができればよかったのじゃが」
 とみは若干困った表情を浮かべながら答えた。
「この刀はアマツに致命傷を負わせることはできるが、非常に脆い。見てみい」
 とみは一度しまった小太刀の鞘を再び抜いて見せた。刃が若干刃こぼれしている。
「この刀は手入れの仕方が限られておる。だから使い時が大切なのじゃ」
「なる」
 ノアは納得した。
「そんな大事なものを使わせてくれてありがとう!さ、これからどうする?」
「ちょうまとリリーちゃんを追いかけましょ」
 Kがそう提案すると、二人は頷いた。
「そだね。ここは綺麗なところだけど、なんとなく薄気味悪さを感じるよ。あいつらが出てきたせいかな?」
「その感じは間違っておらん。ここはアマツが生み出した歪みの世界じゃ。この世ともあの世ともつかない場所。ここに居続ければ、やがてわしらもここに取り込まれてしまうじゃろう」
「恐ろしいところね。まるでアリ地獄みたい」
「そういえば、Kはパワー大丈夫?」
「ええ、エネルギー補給ができれば一番よかったけど、時間が経てば回復するから問題ないわ」
 Kはそう答えると、リリーが走り去って行った巨大な楼閣のほうを見据えた。
「感じるの。あそこへ行けば、全てが解決するって」


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