例の住所不定猫の名前は「イサム」に決まった。
イサムというのは僕の父親の名前だ。
僕の母親がこの名前で呼び出したのがきっかけだったと思う。
数日前に家族三人で暮らしている夢を見たのが後押しとなり、僕もあいつをこの名前で呼ぶことにした。

それでおとといの夕方、うちの猫（以下Cちゃん）と一緒に自宅の庭を散歩してたんだ。
僕はサンルームの下から少しだけ生えていた草を手でちぎり、ふと床下を見た。

するとそこには香箱座りでくつろいでいるイサムの姿が！
Cちゃんもその様子を興味深そうに見ていた。
なるほど、あそこでこちらの様子をうかがっていたから、Cちゃんの食べ残しがすぐに空っぽになっていたんだな。

夕暮れ時にCちゃんだけを散歩に出してやると、いつもどこからかイサムを連れて来る。ということは、Cちゃんはイサムの住所を知っているわけだ。

イサムの見た目はすでにふっくらしているから、これ以上与えていたらさらにムチムチになってしまうだろう。
だけど黄昏を背景に切なそうに鳴く声を聞いてしまうと、どうにも放っておけなくなる。

イサムの本当の家はどこにあるのだろう？