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blog:2025:03:2101

スプライスのあの子は純粋に可愛いと感じた

※ネタバレあり

このページでは映画「スプライス」の感想を述べていく。
巷のレビューでは「気持ちが悪い」という評価が多数だったが、僕はそういうジャンルは平気なので最初から最後まで楽しむことができた。

この作品は、二人の遺伝研究者のカップル(クライヴとエルサ)が、自身らの研究の延長として禁断の命を生み出すという話だ。
エルサから抽出した卵子に実験生物の細胞が注入されて人工授精が完了すると、それは装置の中で急速に成長し、不完全な赤子の形で誕生した。
エルサはその子にドレンと名付け、クライヴの反対を押し切って育て始めるが、ドレンの成長スピードは凄まじく、研究所内で隠して育てるには限界があった。そこでドレンをエルサの実家の納屋に移すのだが……。

ドレンの見た目はヒトの奇形症によく似ている。
長く裂け目のある頭部、眼間開離と釣り上がった目、上向きの鼻、口唇裂、異常な脳波を示すかのような性格。見ようによっては新種のポケモンのようにも見えるだろう。
それが成長と共に人型により近付き、化粧をした姿は意外にも美しい。かに見えたが、納屋の屋根の上で羽根を広げて振り返った表情はやはり異形で、最終的には性転換してエルサを犯した後に、エルサ自身の手で殺されてしまう。

ドレンの遺伝子の半分は異種であるが、もう半分は人間だ。
それ故か、猫やぬいぐるみを愛でたり、クライヴとエルサの似顔絵を描いたりして、人間の子供っぽさを彷彿とさせる場面もある。
そう、身体や知能の成長は早くとも、精神に関してはドレンはまだまだ赤ちゃんで、本当はもっと周囲の配慮が必要だったんだ。
それが人間の女の身勝手な判断によって、実質その命を弄ばれることになった。

主観的に見て、エルサは典型的なウザい母親だ。
自身の遺伝子の入った存在を愛するあまり、周囲の静止もお構いなしで我が子を延命させようとする。
ところがそのうち我が子に知恵がついてきて色々なことをやりだすようになると、今度はその子に制限や罰を与え始める。
十分な理由すら教えないまま叱りつけたり、我が子の大切なものを奪ったりして、小さな精神に愛とトラウマを植え付けていく。この辺は情緒不安定な母親の行動パターンにそっくりだ。
そして我が子が生き物を殺し、エルサ自身にも危害を加えようとした時、彼女は我が子を机に縛り付けて、その原因の一部を切り取ってしまう。
軽く見るなら実にハードな子育てだが、この一連の場面には、児に対する母親の歪んだ愛憎が詰まっている。

例えば重度障害を持って生まれてきた子供を、小さいうちはか弱くて可愛いからという理由で手塩にかけて面倒を看る。
それがそこそこ育ってきて、場合によっては手に負えなくなってくると、今度はその子をどうやって手放すかを考え始める。
こういう身勝手な親のことを、僕は「無計画な親」と呼んでいるが、エルサはまさにそれだろう。
そうは言ってもドレンは新種だから、ヒトの考えの及ばない変化をしていくのは仕方のないことだ。
そんな例外だらけの日々を受け入れながら、現実に障害児を育てている世の中の親御さんたちは非常に意味のある事をしていると思う。
そういう人たちのことも思い浮かべながらこの作品を考察すると、より違った視点が見えるようになるだろう。

それでクライヴのほうだが、彼も彼でどうかしている。
ドレンにエルサの面影を認めた後に、ドレンに性の悦びを覚えさせるところには、ヒトの男としての醜い部分が滲み出ている。
しかしレコードの曲に合わせてドレンと楽しそうに踊ったり、ドレンに対して(まるで父性があるかのように)「愛してる」と言っていたのには、クライヴの複雑な思いが感じられた。結局のところ、彼もドレンをどう扱ったらよいか分からなかったのだ。

そして、新しい命を予感させるラストには大きな期待を覚えた。
あのおぞましき近交係数を備えた存在は、果たしてどのような姿で生まれて来るのか。
このような狂った物語は大好きだ。

blog/2025/03/2101.txt · 最終更新: 2025/03/22 by X?-R

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