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X-Projects 亜倫神琉(ありんかむる)
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====== 退廃の鏡像 ====== {{:wiki:退廃の鏡像_イントロイメージ.png?200|}} 公開日: 2018.9.19 含まれる内容: 旅物語、LGBT+、同族愛、ホラー ある旅先で起きた奇妙な出来事。幽霊は出てきませんが、一部アブノーマルな内容を含んでいますので注意してご覧ください。 ---- 私にとってはつい最近のことのように感じられるが、おそらくこれを読んでいる人には、大分昔の話になるだろう。 季節は夏から秋に移り変わる頃、私は海沿いの街へ観光に来ていた。午前中は晴れていたが、午後になると空に雲が目立ち始め、幸い雨は降らなかったものの、薄着で歩いていた私には少し肌寒さを感じるくらいの天気だった。 私が歩いていたのは海沿いにある道路で、片側の斜面には木々が茂り、車の往来はわりと多い。主要道路から少し離れた小高い場所に休憩所があったので、しばらくそこで休むことにした。 ベンチに腰かけて飲料水を飲んでいると、ふと視界の隅に年式の古めなセダンが停まるのが見えた。窓にはスモークが貼られていて何人乗っているのか知らないが、あの人たちも休憩しに来たのだろう。そんなことをぼんやり考えていると、後部座席のドアが開いた。中から出てきたのは、髪を後ろで束ねた女性だった。彼女がこちらに近づいてくる。 どうやら彼女たちもレジャーに来ていたそうで、友人が来るまでこの場所で時間をつぶしていて、その友人と合流したら帰る予定なんですよ、などと話をしていた。 その後彼女たちと別れてホテルでチェックインしようとしたのだが、店側に不手際があったらしく、私は予約していないことになっていた。ほかのホテルを探そうとして建物を出ると、先程休憩所で見かけたセダンが通りの脇に停まっていて、あの女性がこちらに向けて手を振っていた。 「ここにお泊りになるんですか?」 「その予定だったのですが、今夜は難しそうです」 私が女性に理由を話すと、それならわたしの友達の家に来ませんか?ちゃんとしたお部屋もありますよと言ってくれた。ここまでこの女性からは何も悪い印象は受けなかったし、日も暮れかけていたので、彼女の誘いを有り難く受けることにした。 セダンの運転手は思いのほか若く、つい先日大学を卒業したてのような風貌の青年だった。彼は無口で、女性の話にはあぁ、うん、などど短い返事をし、私とは挨拶程度の会話のみで、時折独り言のように何かを呟いていた。 やがて車は別荘地に入った、雑木林のあちこちに瀟洒な造りの建物が点在している。 「わたしたち、この近所に住んでるのでこれで帰りますね」 そう言い残し、私を目的地に降ろした二人はどこかへ去って行った。 クラシックな造りの家の玄関チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。迎えてくれたのは初老の女性で、話しは聞いています、ゆっくりしていってくださいと温かい言葉をかけてくれた。寝室に案内される途中、長い廊下の奥に女性らしき姿の影が見えたが、それはひとつ瞬きをするとすぐに消えた。 夕食を頂きシャワーを浴びた後、私は寝室に戻り持ってきていた本を読んでいた。ある程度読み進めたところで目蓋が重くなってきたので、完全に寝入る前に明かりを消そうと思っていた時、寝室のドアをノックする音が聞こえた。 てっきりあの老女が何かを伝えに来たのかと思ったが、そうではなかった。ドアの前に立っていたのは、私に瓜二つの容姿を持つ人物だった。背丈もほぼ一緒である。その姿を見た瞬間、私の眠気は吹き飛んだ。 「こんばんは。挨拶が遅れてごめんなさい」 声まで私に似ていたが、喋り方は異なっていた。彼(性別が分からないので仮に彼としておく)は私にタオルを差し出し、これからでしょう?と微笑んだ。 突如現れた自分のドッペルゲンガーに私は興味を持った。向こうもそう感じたのか、こちらの様子をまじまじと観察しているようだった。 彼の名前はキョウイチ。キョウイチはここの家主で初老の女性は彼の家の家政婦。ではもう一人の女性は? 「知らない」 彼は短くそう答えた。やはりあれは私の見間違いだったのだろうか。 それにしても、先程会ったばかりだというのに、妙にお互い理解が進む。これも顔が似ているせいか、まったく他人という気はせず、まるで馴染みの友人…それ以上に近い存在と接しているようだ。聞けば年齢だけでなく血液型も一緒だという。 「僕のほうが少しだけ早く生まれたから、君より少しお兄さんだね」 と、キョウイチは子供のような笑みを見せた。 その後も眠くなるまで私たちは話をしていた。キョウイチはロマンティックな性格で、まず理想を思い描き、それを実生活に取り入れて膨らませていく技術に長けていた。対して私は、思い立ったらすぐさま行動に移すタイプ。前触れもなく新しいことを始めたり夢を見たり…本質的なところでは、やはり私たちは似ているのかもしれない。 「シャム双生児も恋をするのかな」 シャム双生児とは、出生時に体の一部が接合して生まれてきた双子のことである。多くは生涯そのままで文字通り一心同体の人生を生きるが、分離手術によって互いに独立した生活を送る場合もある。キョウイチは後者を例に出し、私に問いかけた。 「切なくないのかな。ずっと一緒だったのに、神様の手から離れてしまって、挙句にどこかの医者に強制的に別れさせられるなんて」 「そうしたほうが長生きできるケースもあるし、お互いにとってプラスの場合もあるよ。それぞれ別々の体験をできるから、個々に見識を深められるし、視野も広がる。まったく違う人を好きになることもあると思う。同じ人間だから―」 「いや、そうじゃなくて」 そう言うとキョウイチは私の手首を掴み、目を見開き呟いた。 「お互いを、愛することもあるのかなって」 \\ その翌日。一人きりの朝食を頂いた後、私はキョウイチの家を出るための準備をしていた。彼は何泊でもしていけばいいと言ってくれたが、旅の続きも残っているし、自宅にペットを飼育していたので何日も家を空けておくわけにはいかない。それをキョウイチに伝えると彼は残念そうではあったが納得してくれたようで、別れの前に見せたいものがあると私を裏庭へと案内した。 敷地の外れにあったそれはコンクリートで塗り固められた四角い小さな建造物で、一見すると焼却炉のようでもあった。 「もともとここは物置だったんだ」 キョウイチは小屋の鍵を開けると、私を内部へと導いた。中には地下室への階段があり、彼曰く、この地下は水路に繋がっている。けれど普段は滅多に利用しないので、その手前の空間を利用しているらしい。 「何のために?」 「趣味だよ。ついてきて」 ここならば、誰にも悟られずに自分の好きなことに打ち込めるだろうな。階段を降りながら、私はそんなことを考えていた。 階段を降りると、正面に奥行き5メートルほどの無機質な廊下と、その両側に二つの扉があった。キョウイチは入口から近いほうの部屋に私を案内し、この部屋の説明が終わったら奥の部屋も見せてあげるよ、と言った。 そこは小さな研究室のようだった。小型のテーブルが一つと椅子が二脚。隅の方にもう一脚あったかもしれない。そしてどのようにして運び込んだのだろうか、フラスコや顕微鏡などの実験器具が収められた棚が二つと、小さな冷凍冷蔵庫が一つ。かすかに薬品のにおいが漂っている。 「ここは何の部屋?」 「見えないものを作る部屋。前は先生がいたけど、今は僕が管理してる」 そう答えるとキョウイチは棚から高さ15センチほどの瓶を取り出し、中の液体を揺らして見せた。 「これをもう少し寝かせると、これになるんだ」 次に彼は冷蔵庫から先程の瓶よりも小さな容器を取り出し、その蓋を開けた。中に入っていたのは赤黒い液体で、彼はそれをスプーンですくうと私に飲めと促した。 「これはなに?」 「長生きの薬」 おおかた健康食品のたぐいなのだろう。そう思った私はさして警戒もせずキョウイチからスプーンを受け取ると、液体を口にした。その味は不安定で、苦みを無理矢理甘くして飲みやすくしたような感じであった。お世辞にも私の口には合わない。 「どう?」 「まずい」 私はスプーンをキョウイチに返し、部屋の外に出た。一口なめただけなのに気分が悪く、ひどく息苦しい。まるで全身の血管が死に、冷たくなっていくようだ。さては一服盛られたか。誰かの押し殺したような笑い声が聞こえる。それは空耳だったのかもしれない。けれどその声は、私を現実へ引き戻す後押しをしてくれた。 「悪いけど、これで帰るよ」 部屋から出てきたキョウイチにそう告げると、私は出入り口に向かって歩いた。一刻も早くこの地下の空気から逃れなければ、一生日の光を浴びることができなくなってしまう。なぜかは分からないが、直感的にそう感じた。 「どうして?気に障るようなことした?」 後ろでキョウイチの声が聞こえる。直後、私は右足に痙攣を感じ床に膝をついた。 「立てないじゃないか。もう一晩泊まりなよ」 彼は私を羽交い締めにし、私の頭を両手で包むようにして抑え込んだ。このまま首を横に捻られたら、間違いなく私は死ぬ。 「大好きだよ」 その囁きは私を絶頂へ導き、辛うじて残っていた現実への未練を完全に打ち砕いた。 その日の午後。私はキョウイチのもとを後にした。体調は歩けるまでに回復したがこれ以上旅を続ける気にはならなかったので、昨日休憩所で出会った二人に駅まで送ってもらい、その日のうちに帰宅した。 翌日、あの家での出来事を思い返してみた。 謎の女性の影。私とそっくりな人物の存在。キョウイチは地下で何の研究をしていたのだろう。先生とは誰のことだったのだろうか、そして奥の部屋には一体何が?ここまで思い出した時、妙なことに彼の家に戻りたいという、怖いもの見たさか憧憬なのかよく分からない感情が湧き上がってきた。だが私は彼の家の正確な位置を知らない。行きも帰りも歩きではなく他人の運転する車で、満足に辺りを眺める余裕などなかったからだ。覚えているのは、日本海側にある比較的海に近い場所で、周囲は雑木林、そして小奇麗な外観の建物と同じ敷地にあるコンクリートの地下室。Googleストリートビューで探しても当該の物件は見当たらなかったので、おそらく白昼夢でも見ていたのだろう。そう思い、今回のことは長らく胸にしまっておいた。が、日常とは隔絶された奇異な領域を発見したという点においては、今回の旅は実りあるものだったのかもしれない。 \\ 「君が望もうと望むまいと、君はいつか誰かに対して僕と同じことをする。君は僕の思想を反映する鏡だ。君が今よりも僕とそっくりになったら、もう一度君に会いに行くよ。その時になったらずっと一緒に暮らそう。シャム双生児のように」 \\ 彼が私に言ったこの言葉は一種の暗示なのかもしれない。それでも私の心理に植え付けられたキョウイチという種は年月を経て成長していた。だからずっと一緒にいたいんだ。いつまででも君を探し続けるよ。 ---- [[doppelganger|ページの先頭へ]]
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